No.295『見えない気配りをする』

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他人に対する不満でよく挙げられることに、「自分だけが気を遣わされている」というのがあります。
せっかく自分は他人に気を遣っているのに、相手はそれに感謝を示してくれない。もっと自分にも気を遣ってほしい。無神経な人を見ていると、なぜもっと他人に配慮ができないのだろう、と腹が立つ。
自分だけが損をしているようでバカバカしくなる、というものです。

しかし、「気遣い」とは、本来、相手に気づかれないようにやるものです。
「自分だけが損をしている」と思っている人には信じられないかもしれませんが、自分が気を遣っているのと同じくらいに、他人も知らないところで気を遣ってくれているのです。
自分が他人に気を遣ったことは、自分がしたことだから、よく判るだけなのです。
自分が「なぜ相手は気づいてくれないのだろう」と思っているのと同じくらいに、自分も他人の気持ちに気づいていないものなのです。

電車の中で、若くて健康な人は、お年寄りに席を譲るべきです。
しかし、座っていた人が「どうぞ」と立ち上がって席を譲れば、相手は恐縮し、礼を言わなければなりません。中には、「まだそんな年寄りではないぞ」と苦々しく思う人もいるかもしれません。多くの人が見ている前で席を譲られたことに、気恥ずかしさを感じる人もいるでしょう。
本当に気遣いのできる人は、ガラガラにすいているとき以外は、はじめから座らないのです。
もともと空いている席であれば、そこに座りたい人は、何の遠慮もなく座ることができます。
「気遣い」とは、また、「相手に気を遣わせない」ということでもあるのです。

他人に気を遣い、相手から感謝されてしまったら、「逆に相手に気を遣わせるようでは、自分もまだまだ未熟だな」と反省したほうがよいのです。
「よし、今度は相手に悟られないように、他人の役に立つことをしよう」と、自分だけの密かな楽しみをもつのは、なかなか乙なものです。

セルフサービス式の喫茶店などでは、飲食後に食器を自分で片づけるのはもちろんですが、テーブルの上が汚れていたら、きれいに拭いてから出て行くのがマナーです。
前の人が残した食べかすが残っていれば、私たちは、「マナーの悪い人がいるな」と不快に感じますが、では、きれいなテーブルについたときに、「前の人がきれいにしてくれたおかげで、気持ちよく使えるな」ということまで考える人が、どれくらいいるでしょうか。

毎日歩いている公園や駅前の通りも、誰かが掃除をしてくれているのかもしれません。「掃除をしてくれる人がいるおかげで、いつもきれいだな」と、他人の心配りをくみ取っている人が、どれだけいるでしょうか。
また、私たちは、知らないうちに他人の気分を害したり、他人に迷惑をかけたりしているかもしれません。それを他人が我慢し、大目に見てくれているから、自分は気づかずにすんでいるのです。

「自分の気遣いに他人が気づいてくれない」ということにどれだけ悩んでも、きりがありません。
逆に、「自分の気遣いを他人に気づかれないようにしよう」ということを目指すべきなのです。
もちろん、「目に見える気遣い」をしなくてもよいというわけではありません。
褒めたり、ねぎらったり、ちょっとした贈り物をしたり、困っている人を助けたり、他人への親切は積極的に行うべきです。
しかし、それらは「気遣い」のうちに入らず、「なぜ感謝を示してくれないのか」などと恩に着せるほどのものではないのです。

インドでは、裕福そうな身なりをした外国人旅行者が町を歩くと、たちまちのうちに貧しい子供たちが群がってきて、物乞いをはじめます。断ってもしつこくせがまれ、まったく歩けないほどに囲まれてしまうこともあります。
根負けして食べ物やお金などを与えると、子供たちは、ふんだくるように受け取り、礼も言わずに去っていきます。
事情を知らない外国人は、憤慨することもあるそうですが、インドでは、何の不思議もない光景なのです。

他人に善行を施すことは、仏教でいう「お布施」です。
お布施をすることによって、来世の果報が約束されると信じられています。
仏教では、お布施をされた側ではなく、した側が、「おかげで功徳を積むことができました」と感謝するものなのです。

他人に感謝してもらえなくても、腹を立ててはいけません。
「互いに、相手に何かをしてもらったときに感謝する」のも、もちろんよいことなのですが、世の中のすべての人が、「他人のために何かをしたとき、感謝されることを求めず、逆に自分が感謝する」ことができたら、なおすばらしいのではないでしょうか。
見える部分で損をしているように見えても、見えない部分では大きな得をしているのです。
何かをしてもらったときに感謝し、何かをしたときも感謝する。そう心がけていれば、つねに安らかな心でいられるでしょう。

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