No.156『悪い感情を引きずらないために』

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こころが休まる本

他人に傷つけられても、はっきりと自我に目覚め、意志をもって生きている人は、まだ幸福だといえます。
もっとも不幸な人生とは、他人のご機嫌をうかがい、気を遣うばかりで、自分が何をしたいのかが判らない虚しさの中で生きることです。

恋人からひどい暴力を受けたり、浮気を繰り返されたりと、明らかに悪意をもっておとしめられているのに、「きっと本当は優しい人なのだ」と相手を美化して、けな気に耐えている人がいます。

相手の悪意さえも受け止めるだけの寛容さがあればよいのですが、それほどの意志も覚悟もなく、「いったい、いつになったら私の気持ちを判ってくれるのか」と相手にからみ続け、結局裏切られては、人間不信と自己嫌悪にさいなまれるという繰り返しなのです。
他人の欠点に目をつぶるということは、相手の人間性を尊重する気持ちがあってはじめて成立することであって、「本当は文句を言いたいが、嫌われるのが怖いから我慢する」というのでは、被害者意識と無力感に悩まされるだけです。

単に自分が傷つけられているという現実を認めたくないために、怒りを抑圧してしまう人は、悪意に満ちた人の恰好の標的となり、ますます傷つけられることになります。
怒りは不快な感情ですが、「他人を憎むことは許されない」と怒りを抑圧することは、かえって精神の健康に害をおよぼす結果となります。
怒りをはっきりと自覚するほうが、むしろ精神にはよいことなのです。自覚しなければ、解決もできません。

怒りを抑圧してしまうという心の働きは、たいてい、幼いころの親との関係によってつくり出されます。
未熟な親からの非難と憎悪を感じても、子供は、「私の親は本当は優しく、私を愛してくれているに違いない」と信じて疑いません。
幼い子供にとって、親は保護者であり、目標であり、命そのものです。偉大な存在である親を責めることは、多大な罪悪感をともなうものです。

子供は親を通して自分の価値をはかりますから、親の人間性を否定するということは、自分自身を否定することにほかなりません。
親を冷たい人間だと認めてしまえば、そんな親に依存し、愛情を求めて生きていかなければならない自分があまりにも惨めです。無力な子供は、現実から目をそらす以外になすすべがないのです。

恋人を内心では非難しながらも、感情にふたをして、ごまかしながら生きている人も、同じように、恋人に自分を投影してしまっているのでしょう。
自分で自分を認められず、他人にどう思われるかが自分の価値のすべてだと思い込んでいるので、いい加減な人の上っ面の優しさを信じ、それに依存してしまいます。
そして、自分が本当は愛されていないということに気づいた後も、なかなか現実を受け入れることができず、ずるずると解決を先延ばしにしてしまうのです。

子供はひとりでは生きていけない弱い存在ですから、自分をごまかすのもやむをえませんでした。
しかし、大人になってもそれを引きずってはいけません。

人間に飼われている象は、足につながれた鎖を引きちぎって逃げようと思えば逃げられるのに、そうしようとはしません。
小さいころから鎖につながれて育てられたので、成長してからも、鎖は切れないものと思い込んでしまっているのです。

子供のころにひどい心の傷を受けた人も、それはそれとして、やはり大人になれば、鎖を断ち切り、自分で人生を切りひらいていかなければなりません。
自分が傷ついたのは、他人の未熟さのせいであって、自分のせいではなかった。まず、そうはっきり自分に言い聞かせることから始めましょう。
だからといって、いつまでも人のせいにし、人を恨みながら生きていくということではありません。
自分の傷ついた心を受け止めるということは、人を許すための第一歩なのです。

世の中にまったく欠点のない人はいません。
自分が迷い悩みながら生きているのと同じように、他人も皆、迷い悩みながら生きています。
自分を傷つけた人もまた、大きな傷を抱えて生きてきた弱い人間です。傷ついた人間は、意識的に、また無意識のうちに、他人を傷つけてしまうものです。
価値ある人間としての尊厳にかけて、大いなる誇りをもって、その悲しみの連鎖を自分のところで止めなければなりません。

自分を傷つけた人をすぐに許すことはできないでしょう。
「時間がたてば、いつかは許せるときがくるだろうが、今はまだ許せずにいる。こんなにも傷ついたのだから、それは仕方のないことだ」と自分を慰めるだけでも、心はずいぶん落ち着くはずです。

他人としっかり向き合うということは、相手に対する自分の感情と向き合うということでもあります。
嫌いな人を嫌いだとはっきり自覚してこそ、愛すべき人をしっかり愛することができるのです。しっかり人を愛することができれば、やがて、嫌いな人のことを認める心の余裕も生まれることでしょう。

怒ってもよいのです。ただし、いつまでも根にもたないようにしなければなりません。
傷ついてもよいのです。ただし、傷口を自分で広げないようにしなければなりません。
怒りをため込んでいる自分、傷ついている自分を認め、「自分のせいではなかった」とはっきり認めたなら、その殻を脱ぎ捨てて、新しい人生をつくり上げていきましょう。

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