No.112『壁にぶつかったとき』

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中学生、高校生ぐらいになれば、皆、恋人がほしいと願い始めます。異性のこと、恋愛のことで頭がいっぱいになり、勉強も何も手につかないという時期は、誰でも経験することでしょう。
しかし、なかなか思いを打ち明ける勇気が出ず、ただ好きな人を遠くから見つめるだけで終わってしまう、という甘酸っぱさとほろ苦さの入り交じった経験も、多くの人がしているでしょう。

若いころは、自尊心がもろく、傷つきやすいので、なかなか好きな異性に告白する勇気がでないものです。
青少年には、中年をすぎた大人と違って、無限の可能性、果てしない未来への希望があります。自分にはバラ色の人生が待ち受けているに違いない、という誇大妄想を抱く時期でもあります。
だからこそ、その夢を壊されることが怖いのです。

過剰な自意識は、しばしば、無意識の彼方に追いやられ、本人にも自覚されないことがあります。
「私は、それほど高慢ではない。むしろ、自分に自信がもてず悩んでいるのだ」という人もいるかもしれません。
しかし、自信のなさもまた、強すぎる自己顕示欲の裏返しなのです。他人に賞賛されたいという欲求があまりにも強いから、それがかなえられず、失望してしまうのです。

誇大妄想を抱くのは、青少年だけに許される特権です。
中には、それを本当に実現してしまう人もいますが、ほとんどの人は、いずれ挫折を経験し、壁にぶち当たります。自分の身のほどを知り、がく然とするときがきます。
「自分だけは特別な存在である」という幻想から覚めるのです。
しかし、そこで悲観してはいけません。これは、健全な精神の発育のために、ぜひとも必要なことなのです。

生まれたての赤ん坊は、自分と他者の区別がついていません。
おなかがすいたときにはミルクが与えられ、おしめが濡れれば取り替えられるのは、自分の能力のおかげだと思っています。自分が世界のすべてであり、望めば何でも願いはかなう、という万能感をもっているのです。
やがて、成長していくと、自分の欲求は親という他者によってかなえられていただけなのだ、ということが認識できるようになります。世界は自分のものではなく、自分はこの世界のほんの一部の存在にすぎないのだ、というショッキングな現実を知るのです。

自分は万能であるというナルシシズムを脱するのはつらいことですが、その代わりに、外部との接触の中で得られる喜びや生きがいという、もっと重要なものを手に入れることになります。
他人に褒められることで、他人の役に立つことの喜びを覚え、「もっと努力してみよう」という意欲をもつようになります。
人間は不完全で、思い通りにならないこともあるけれど、だからこそ、何かをなしえたときの達成感は素晴らしいと思うようになります。
自分はひとりだけの力では生きていけない、まわりの多くの人の支えのおかげで生きていけるのだ、という感謝の心をもつようになります。

青少年のみなさんにとって、好きな異性に振られるということは、自尊心をひどく傷つけられることでしょう。
若いころは、「人生は自分の思い通りになるべきだ」「他人は皆、自分に興味をもってくれるべきだ」という妄想にかられているものです。自分が他人から、しかも好きな人から拒絶されるなどということは、あってはならないことで、耐え難い屈辱です。
しかしながら、望み通りに恋愛が成就することはまれで、かなわないことのほうが圧倒的に多いのです。
まだ挫折を経験する覚悟ができていないなら、好きな人への告白はやめておいたほうがよいかもしれません。

ただし、いくら先延ばしにしても、いつかはそれを乗り越えなければならないのだ、ということは頭にとどめておく必要があります。
自分の身のほどを知ることなく、赤ん坊のように幼稚なナルシシズムを抱えたまま大人になってしまえば、その末路は悲惨です。臆病を純情とはき違えた陰湿なストーカーになるか、一生誰も愛せずに終わるかです。

自己愛は、自分で育て、守るものであって、他人によって傷つけられるものではありません。他人によって簡単に傷つけられるなら、それは本当の自己愛ではなく、ただの見栄や虚栄心です。

人生のすべてが思い通りになるのが当然だとしたら、生きることに何の張り合いも感じられないでしょう。
葛藤のない人間関係はありません。皆、傷つきながらも、葛藤にうまく対処する技術を身につけて、成長していくのです。
思い通りにならない人生の中で、他人と支え合い、互いの足りない部分を補い合い、認め合い、許し合うことで、信頼関係や自己価値観というものは形成されていきます。
思い通りにならないからこそ、人生はドラマチックであり、生きる価値があるのです。

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