No.025『正しい方向を見極めよう』

たかたまさひろの本 累計29万部

リラックスブック

こころのおそうじ

こころが休まる本

あるサラリーマンが、リストラにより会社を退職させられることになりました。
彼には、妻と、高校受験を控えた娘がいました。マンションのローンも残っています。再就職先を必死で探しましたが、なかなか見つかりません。彼は、心身ともに疲労しきってしまいました。
妻と娘は、「がんばって、がんばって」と父親をずっと励まし続けました。
そしてついに、彼は、次のような遺書を残して自ら命を絶ちました。
「申し訳ない。もうこれ以上、がんばれない」
誰にも悪意はないのに起こってしまった悲劇でした。

落ち込んでいる人に向かって、「がんばれ、がんばれ」と励ますのは、ますますその人を追いつめることになってしまいますので、注意が必要です。
一般に、ジョギングをすることは、健康にいいことですが、それはもともと体が健康であるときにかぎります。

病気で寝込んでいる人を叩き起こして、「健康のためにジョギングをしろ」という人はいないでしょう。
心の健康についても、同じことがいえるのです。
心が病んでいるときは、ゆったりと過ごし、快復を待つことを最優先させなくてはなりません。心が健康になってから、がんばればいいのです。

生真面目で神経症的な性格の人は、必死で自分に「がんばれ」「強くなれ」と言い聞かせ、けな気に努力しています。
そういう人たちの「努力」とは、たいていの場合、自分の生きがいのためではなく、他人に見捨てられたくないという不安によるものです。

不安から逃れるための努力は、決して報われることはありません。不安という心の病の原因は、自分の中にあるのですから、まずそれを取り除かなければなりません。
いくら努力しても、それは、風邪を引いている人が必死でジョギングをしているようなもので、ますます症状を悪化させる結果に終わるだけです。

冒頭にあげた父親は、お気の毒でしたが、「家族を養えなければ、父親として失格だ」という思い込みにとらわれすぎていたのです。
もちろん、家族を養うということは、父親の重要な役目のひとつですが、それがすべてではありません。

安いアパートに引っ越し、つましい暮らしをしながらも、「貧しい中にも生きることの喜びを見出す」ことを子供に教えるという選択肢もあったはずです。
むしろ、その方が子供の人生観によい影響を与えたかもしれないのです。家族の絆は深まり、豊かな暮らしをしていた時は見えていなかった大切なものを発見できたことでしょう。
子供の学費を出すことだけが教育ではありません。父親は、ひたすら「家族のため」とがんばったのですが、その努力は幸せに向かっていなかったのです。

「自分はこんなにがんばっているのに、まったく報われない」と嘆いている人は、「こうあらねばならない」という思い込みにとらわれすぎているために、努力が空回りをしているだけなのです。
「報われないのは、努力が足りないからだ」と、ますます虚しい努力を続け、ついには心も体も疲れきってしまいます。

近年、徐々にですが、「スロー・ライフ」という考えが広まりつつあります。
誤解を受けやすいのですが、スロー・ライフとは、決して、無気力で怠惰に生きることを推奨しているわけではありません。
死にたいほどに追いつめられるくらいなら、いっそのこと、しがらみをすべて捨て去ってみるのもひとつの選択肢ではないか、ということです。
あくまで、「心豊かに生きる」ことが目的なのです。

これまで必死でしがみついてきたものが、「それを失うと本当に困るのか、自分の人間としての価値にかかわる問題なのか」を一度考え直してみるのは、無駄ではないでしょう。

人生には、たくさんの選択肢があります。道はひとつではありません。
道に迷ったなら、やみくもに歩き回るより、立ち止まって、地図とコンパスを用意し、自分の進むべき方向を見直してみましょう。
これまで見えていなかった新しい道が拓けるかもしれません。

No.020 - 029
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